小野寺工業のチャレンジ

幾多の障壁を乗り越えて新事業開発に取り組む、メンバーとコンサルタントが織りなすドラマです

御用聞きでは世界に通用しない! 顧客を観察し、顧客の要求を射止めたソリューションで勝負する

「どうやって海外事業を立ち上げるのか」

 

笠間たちコアチームのメンバーは、この難題に正面から向き合うことを決めた。

その手始めに、事業方針をざっくりと固めることになった。

 

小野寺工業の社員たちは顧客の要求に応えるリアクティブな活動に慣れ切っていた。ところが海外事業はそうはいかない。近畿工作機のように、競合他社に声を掛けるようなこともせず、自分たちの欲しいものを機能レベルで要求してくれる顧客は海外にはいない。海外で勝ち残るには、競合相手を打ち負かさなければならないのだ。

 

浦田は、ビジネスの仕組みの再構築はもとより意識改革が欠かせないことを笠間たちに伝えた。

顧客からの引き合いを待つのではなく、プロアクティブに顧客を開拓し、案件を発掘できるようにならなければならない。しかも、競合に勝つにはビジネスの効率化は欠かせない。案件ごとに顧客に合わせて開発するのではダメで、ベースシステムを整えたソリューション型に舵を切る必要がある。それが浦田の教えだった。

 

村山が納得のいかない顔で質問した。

「お客様ごとに要求は違うのに、ソリューション型では押し売りになってしまいませんか。私たちの強みは、お客様の要求に対する実現力のはずです」

 

浦田が口を開こうとしたとき、笠間が諭すような口調で言った。

「これまではそうだったが、海外はそれじゃダメってことだよ。海外には近畿工作機はいないからね」

 

浦田は話しを続け、最後にこうまとめた。

「自分たちは新しいお客様を見つけ出し、関係を構築し、案件のたびに声を掛けてもらえるようにならないといけません。『要望をいただけたらなんでも作ります』では、声掛けすらしてもらえないですよ」

 

笠間は、浦田の言葉にかぶせるように言った。

「『私たちの商品はこういう風に優れていて、お客様のこういう課題を、こういう風に解決できます』と提案できない限り、海外事業は始まらないということだな」

 

浦田が皆に尋ねた。

 

「でも、押し売りというのはいい表現でしたね。押し売りとソリューション提案は何が違うのでしょうか」

 

だれも答えるものはいなかったので、浦田はその違いをこう説明した。

 

「押し売り」とは、自分たちが勝手な思いで作ったものを、お客の要望に関わらず押し付けることである。それに対して「ソリューション提案」は、観察(=マーケットイン)を通じて顧客の課題や要求を把握し、それらを満たすようなベースシステムをあらかじめ開発しておくことである。ポイントは「観察(=マーケットイン)」にある。これなしでは、単なる押し売りになってしまう。つまり優れたソリューションベンダーは、ベースシステムに最小限のカスタマイズを加えることで、適正期間、適正価格、適正品質のもとに、顧客の要求を満たすことができる。

 

浦田の説明はさらに核心へと迫っていった。

 

世の中が複雑化する中で「顧客は常に正しい」とは限らなくなった。自分たちの置かれた環境すら正しく理解できていない顧客も多い。小野寺工業は工作機械分野のプロフェッショナルとして専門家の目で顧客を観察し、彼らが自覚していない課題を見つけ出し、アドバイスを提供しなければならない。

顧客のビジネス環境が厳しくなる中で、顧客の要望に沿ってゼロから開発したのでは顧客の費用負担が大きくなりすぎるだろうし、希望納期にも間に合わないだろう。競合他社に勝る低価格、短納期、高品質を実現するには、小野寺工業はソリューションベンダーになるしかない。さもなければ、実力以上の低価格と短納期を要求され、いずれ事業は疲弊してしまうに違いない。

 

独り善がりなのが「押し売り」で、マーケットインから生まれるのが「ソリューション提案」、浦田はそれをコアチームの皆に腹落ちしてほしかった。

 

その後も、議論は夜中まで続いた。

笠間たちは、自分たちが目指していることの難しさを改めて思い知った。

 

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[ポイント]

選ばれるソリューションベンダーになるには、顧客だけを見るのではなく、顧客を取り巻くビジネス環境を顧客目線と専門家目線の両方から観察することで、顧客の状況を構造的に把握しなければならない。これができれば、目の前の顧客のみならず、将来、自分たちの顧客となる可能性が高い人たちの課題が見えてくる。

このときのポイントが「顧客の顧客」である。「顧客の顧客」とは、自分たちの顧客が事業を行っている市場のことだ。彼らの課題や購買意識を観察することで、顧客の課題も浮き彫りになる。これらを構造的に把握できれば、顧客に何を提供すればいいのか(=提供価値)が見えてくる。

明らかになった提供価値をできるだけ効率的に提供するための手段がベースシステムである。優れたベースシステムを生み出すには、顧客観察で得た知見がものを言う。他社の追従を許さないためには、将来を担保できる技術力が必要になることも忘れてはならない。

 

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[場当たり的な後藤部長の思考]

お客様のことはお客様自身が一番よく知っている。顧客の要求を具体的に伺い、これをフルスクラッチ(=ゼロから開発)で提供する。これが「顧客志向」というものだし、私たちに与えられた使命だ。

世の中の多くの企業は効率化を追求してベースシステムを整え、ソリューション型に舵を切っている。これは売る側の理論であって「押し売り」に他ならない。顧客の要求に応じてカスタマイズしたところで顧客は満足しないに決まっている。私たちは今のやり方で顧客志向を貫かなければならない。

 

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[本質に向き合う吉田部長の思考]

高度化する要求に対してこれまでのようにフルスクラッチで提供していたのでは、事業効率は低下する一方だ。価格の高い商品を長い期間をかけて提供することになり、結果的に顧客のためにはならない。しかも、世の中が複雑化する中で、顧客自身も自分たちの課題を正しく理解できていない。

私たちは、ベースシステムを整えてソリューション型の事業に舵を切らなければならない。

カギを握るのは、ベースシステムのデキだ。顧客の課題をえぐり取るようなベースシステムにしなければ意味がない。私たちは、顧客を観察し、彼ら自身も気付いていない課題を指摘し、専門家しか成し得ない解決策をベースシステムに盛り込む。そして、それを最小限のカスタマイズで提供する。これで、低価格、短納期を実現できる。提供する側が自分たちの利益追求や思い込みで開発したベースシステムは押し売りでしかないので、それをやってはいけない。

 

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