小野寺工業のチャレンジ

幾多の障壁を乗り越えて新事業開発に取り組む、メンバーとコンサルタントが織りなすドラマです

スポンサーシップなくして変革なし! 大組織のイナーシャは大きいが、意思決定のシナリオとスポンサーシップがあれば動き出す

海外事業の立ち上げが実行に移されようとしていたころ、笠間は変革活動に明け暮れたこれまでの半年間を振り返り、その成果を経営陣に報告した。

経営陣の支持を得られたことで、笠間たちOBFコアメンバーには落ち着いて考える時間がほんの少しだけ戻ってきた。笠間たちと浦田は2か月後に差し迫った組織改革に向け、新しい組織体制の設計に取り掛かっていた。

 

当初は、現在の組織をできるだけそのまま残すという方針が出ていた。変革がスタートして間がないころ、一部の経営陣が性急すぎる変化を警戒たからだった。

しかし、今はそんなことはない。現場は、予想をはるかに上回るペースで変化を受け入れていった。せっかくここまで盛り上げてきた変革活動が、組織改革の失敗で骨抜きになったのでは元も子もない。笠間たちコアチームは全員一致で「根本的な組織改革やむなし」との結論を出した。

 

笠間は新体制案を携えて社長室を訪ねた。そこには、結論に至ったシナリオもしたためてあった。

社長室には、保守派のひとりである副社長も同席していた。

 

一通りの説明が終わったとき、副社長が怪訝そうに眉をひそめて言った。

 

「最初から本格的すぎやしないか? 近畿工作機からはいまだに発注をいただいているし、もっと緩やかにスタートしてもいいのではないか? スタートして半年も経っていないし、これほど大きな組織改革を意思決定するには判断材料が足らないように思うがね。これは、今の説明を聞いての個人的な意見ですが、社長はどう思われましたか?」。

 

社長が黙って考え込んでいると副社長は更に続けた。

 

「そもそも、この新体制では部長クラスの人数に対してポジションが少なすぎるじゃないか。笠間さん、もう少し考えてみないかね?」

 

沈黙の間、笠間は社長から視線を外さなかった。

「社長は迷っているな」と思った。

 

社長は、笠間が作ってきた体制案に改めて目を通していたが、次の瞬間、顔を上げて副社長の方を見て言った。

 

「このシナリオによれば、今を逃すと、次は1年後になるねえ。判断材料が完全に揃うのを待っていては手遅れになるし、決めるなら今しかないだろう」

 

副社長は身を乗り出し、時期尚早だ、役員会に掛けるべきだと進言した。

これに対し、社長はしっかりした声ではっきりとこう言った。

 

「これで行こう」

 

役員会に掛けたところで、出てくる意見は前回と変わらないだろう。あのように変わることを怖がる人たちが、簡単に、この提案を受け入れるとは思えない。

これが社長の意見だった。

 

「私がこの場で決めて、決定事項として彼らに伝えるよ。文句があるならいくらでも聞いてやるが、この決定は覆らない」

 

そして、椅子を180度回して窓の外を眺めながら「この提案で人事案を固めてくれ」と笠間に指示した。

 

結論は出た。

海外事業の立ち上げにあたり、社長が口にしていた「スポンサーシップ」という言葉は本物だった。

 

1週間後、笠間は新体制と人事案を役員会に提出した。

役員会では、この案を1か月後の人事決定会議に掛けることで話は決まった。

 

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[ポイント]

少ない情報を活かして意思決定は、受け身ではできない。集まった情報を目の前にして思い悩んだところで、安全性の高い結論など出せるわけがない。そんな時には、意思決定に至るシナリオを考えることだ。

できれば複数のシナリオを準備し、その中から少数のシナリオに当たりを付ける。この作業の過程で、それぞれのシナリオを完成するために欠かせない情報が明らかになる。

シナリオに当たりを付けるために部下と議論すれば、お互いの理解は進む。しかも、無駄な分析に時間を割かれることもなくなる。

 

意思決定のシナリオ作りでは、不明確な個所を仮説で補いながら意思決定の要素を洗い出す。そして、依存関係や包含関係、トレードオフや相乗効果などを意識しながらそれらの要素を構造化する。

可能であれば、シナリオを評価するための枠組みや、シナリオ選択の判定基準も準備しておくほうがいい。

 

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[場当たり的な後藤部長の思考]

意思決定には、それに足る十分な判断材料が必要だ。私は、準備不足の部下には「この程度の情報では意思決定などできない」と突き返すことにしている。

意思決定が遅れるのは仕方のない。それで好機を逸したとしても、ダメな部下を持ったせいだとあきらめるしかない。間違えた意思決定を下すよりはましだ。

意思決定に必要な判断材料が何かは、部下が考えればいいことだ。

 

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[本質に向き合う吉田部長の思考]

複雑な事業環境のもとでは、十分な情報など揃うはずがない。それを待っていたのでは、時間がかかり過ぎて好機を逸すだけだ。

意思決定者は、少ない情報を有効活用して、適切なタイミングで決定を下さなければならない。リスクはつきものだが、それを恐れていたのでは前に進むことはできない。

意思決定して前に進むことでさらなる情報が集まってくるし、白か黒かが明らかになる。確実さよりもタイミングを優先すべきだ。

上に立つ人は、リスクを取ることに慣れなければならない。例え判断が間違えたとして、前に進む勢いさえあれば、瞬発力でリカバリできることも多い。

例え悪い結果につながったとしても、それを攻めない組織文化や価値観が大切だ。前向きな失敗を責めていたのでは、組織は硬直してしまう。

 

とはいえ、判断力は常日頃から磨いておかなければならない。

これは経営陣に限った話ではない。

大小いかなる計画も、程度の違いこそあれ、判断を伴うことになるからだ。「仮説」ひとつ立てるにも「決め」が欠かせないので判断が付きまとう。

部下からの説明を受けて「それは君の考えでしかないだろう」と叱咤する上司は論外だ。

 

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