小野寺工業のチャレンジ

幾多の障壁を乗り越えて新事業開発に取り組む、メンバーとコンサルタントが織りなすドラマです

投資には「ポジティブ」と「ネガティブ」があり、ポジティブな投資は、将来に引き継ぐ価値を生み出すことで次の戦略を支える

「今日は投資についてお話させてください」

 

浦田は笠間たちOBFコアチームを前にしてこう切り出した。

岡を中心に進めている市場分析は順調に完成に近づいており、そろそろ投資計画を具体化しなければいけない時期だった。

 

「投資には、ポジティブな投資とネガティブな投資があります」

 

浦田の話はこうだった。

 

ひと言で「戦略」と言ってもその内容は様々だが、シンプルにとらえると、戦略とは経営資源配分を決定することに他ならない。

戦略は実行に移されてこそ意味を持つが、それには資金が欠かせない。言い換えれば、何にどれほど投資するかは戦略そのものと言える。投資のあり方が事業の将来を決めると言っても過言ではないわけだ。

 

経営幹部は、差し迫った状況下で投資の意思決定を迫られるが、必要だからという理由で投資を続けていたのでは、近い将来、その組織は疲弊していくに違いない。なぜなら、事業にはいい時もあれば悪いときもあるからだ。

景気のいい時期はそれでもいいが、景気の悪化とともに、事業継続に必要な最低限の投資すらままならなくなる。投資できなくなった組織は、それを機に衰退の道をたどることになる。

そうならないためには、私たちは賢い投資の方法を身に付けなければならない。

 

投資には、本来の役割を終えると揮発してなくなってしまう投資もあれば、役割を終えた後も将来に引き継ぐ価値を生み出すことで次の戦略を支える投資もある。

浦田は、前者を「ネガティブな投資」、後者を「ポジティブな投資」と呼んだ。ポジティブな投資が生み出した価値はらせん状に成長し、新たな価値を生み出す原動力となる。いわゆるポジティブループが生み出されるわけだ。事業成長を続けるためには、ポジティブループを意識した投資を心掛けなければならない。

例えば、投資により、その時の必要に迫られて生み出された人材や技術が、次の時代の競争力を担うことはよくある。これはポジティブループの典型例である。

 

笠原はもちろん、そこにいた全員が浦田の話に聞き入った。

 

「これはもともと金融業界で培われた投資理論ですが、事業運営にも通用します。私はこの理論を15年前に読んだ本で知り、これまでに何度も、この理論の正しさを肌で感じてきました」

 

浦田はこう言いながら、ポジティブループの例をホワイトボードに描いた。

その絵は、確かにらせん状になっていた。

 

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[ポイント]

投資の意思決定を下すには、目の前の投資案件がポジティブな投資なのか、ネガティブな投資なのかを判断する必要がある。そのための準備としては、事業の成長サイクルを大まかにでも描いておくとよい。

 

先ずは事業方針を明確にした上で、事業戦略を決める。次に、事業を描き出すためのキーワードを羅列し、依存関係に着目して円弧矢印でこれらを結ぶ。こうしてでき上がったものが事業成長サイクルで、事業を概念的に捉えるための手法のひとつである。

でき上がった事業成長サイクルの中に投資事案を書き加えることで、使い果たすだけの投資なのか、それとも将来に引き継ぐ価値を生み出す投資なのかを判別することができる。事業の成長サイクルの一部として投資事案を位置付けることができれば、それがポジティブな投資だという証となる。

 

一見するとネガティブに映る投資であっても注意は必要だ。

投資で実現したい対象物を因数分解し、その中に差別化につながる要素を発見できたとしたら、それはポジティブな投資かもしれない。

例えば、顧客の特殊な要求に応えるために、応用のきかない特殊設備を導入するとしよう。これはその場限りの投資のように映るが、特殊に思えるこの要求をよくよく因数分解してみると、その中に、将来の差別化につながるヒントが潜んでいることはよくある。この場合、特殊装置を導入するための投資は、将来の顧客獲得や事業拡大につながる可能性が高く、ポジティブな投資ととらえることができる。

 

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[場当たり的な後藤部長の思考]

事業戦略を実行に移すには投資が欠かせない。何にどれだけ投資するかで事業の将来は違ってくるので、投資の意思決定は重要だ。投資対効果をしっかり見極めたうえで、投資するか否かの判断を下さなければならない。思い込みや勢いで投資をする時代はすでに終わった。

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[本質に向き合う吉田部長の思考]

投資対効果が投資判断の重要な指標であることは変わりないが、実は、これは目の前のビジネス機会や必要性に着目しているに過ぎない。

投資のプロが集まる金融業界に目をやると、もうひとつの投資判断が存在することがわかった。それが「ネガティブな投資」か「ポジティブな投資」かの判断だ。これは事業運営を時間軸でとらえた上での判断であり、通常の投資対効果の計算には表れない、別次元の価値観に私たちを導いてくれる。

 

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