小野寺工業のチャレンジ

幾多の障壁を乗り越えて新事業開発に取り組む、メンバーとコンサルタントが織りなすドラマです

「顧客の顧客」が抱える潜在的な課題をつかみ、顧客にとっての戦略的パートナーを目指す

アポロマシナリーへの顧客開拓活動がスタートしたのはこの直後だった。

アポロマシナリーからは以前に引き合いがあり、加工制御ソフトウェアを提供した実績があった。関係者の話ではその後も細々と関係は続いているようだったが、それを裏付ける情報は見つからなかった。そこでソフトウェア事業部の当時の担当者に連絡をとったところ、話を聞くことができた。この引き合いの後も何度かRFPをもらったが、いずれも受注には至っていないということだった。

 

笠間たちOBFコアメンバーは、浦田のアドバイスに従い、アポロマシナリーがどんな課題を抱えているのかと想像を巡らせた。

アポロマシナリーの戦略的パートナーを目指そうにも単発の面談では限界がある。先ずは彼らを継続的なディスカッションに引き込む必要があった。そのためには、アポロマシナリーの関心を引かなければならない。その足掛かりは、彼らが抱える課題だった。

 

ところが、この議論は盛り上がりに欠けた。出てくる意見がどれもありきたりだったからだ。

 

「難しいですね。何から手をつければいいのか、まったく見当がつかない」

 

笠間は頭を抱えた。

浦田は彼らに「顧客の顧客」に目を向けるように促した。

 

「アポロマシナリーばかりを見ていても状況は変わりません。アポロマシナリーの戦略的パートナーになるには、アポロマシナリーの顧客、私たちにとっての『顧客の顧客』に目を向ける必要があります」

 

笠間たちにとって「顧客の顧客」は初めて耳にする言葉だった。

 

小野寺工業にとっての顧客は工作機メーカーなので、「顧客の顧客」は工作機メーカーにとっての顧客ということになる。購入した工作機で製品を加工する人たち、つまりエンドユーザーということだ。

浦田の説明はこうだった。

 

工作機メーカーの戦略的パートナーになるためには、「顧客の顧客」を観察し、その成果をもってアポロマシナリーに小野寺工業の存在感をアピールしなければならない。

 

この説明で使われた「観察」という言葉に笠間は引っ掛かった。なぜ「分析」ではなく「観察」なのか。

そんな笠間の疑問に、浦田はこう答えた。

 

「分析」はすでに明らかになっている情報を対象とするが、「観察」では、観察の対象者すら自覚できていない情報を観察する側が発見しなければならない。

 

翌週、自動車メーカーや大手自動車機器メーカーの観察がスタートした。アポロマシナリーの主要顧客は自動車業界だったからだ。

OBFコアメンバーは全員、自動車運転免許を持っていた。中でも岡は生粋のカーマニアだったので、自動車業界相手の勘所は心得ていた。

自動車業界の事業モデルや市場特性を起点に、笠間たちは全員で手当たり次第に情報を集めた。自動車業界が抱える課題を想像し続ける日々が何日も続いた。自動車部品メーカーの工場見学ツアーにも参加したし、時には自動車メーカーの知り合いを訪ねて意見を聴かせてもらったりもした。

日豊自動車や富士自動車、刈谷精密工業といった日本が誇るグローバルメーカーがアポロマシナリーの取引先だったことも幸いした。

 

数か月後、それまでの活動が実を結び、アポロマシナリーとは定期的な意見交換の場を持てるまでになった。しかもドイツの自動車部品メーカーの1社とは、加工技術の分野でアドイバイスを求められるまでの関係になっていた。このような現実は、小野寺工業の加工制御のノウハウと専門家としての目線が海外でも通用することを物語っていた。

 

陣頭指揮に当たったのは村山だったが、事業部から参加しているメンバーたちも力を発揮した。意見交換会を足掛かりに、アポロマシナリーの「隠れた課題」を発見することに成功したのだ。

実は、アポロマシナリーはもとよりエンドユーザーでさえ、この課題に気付いていなかった。この課題は、エンドユーザーの生産性に深く関わっていた。

 

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[ポイント]

専門家の目線で顧客と力を合わせて戦うには、相応な見識や自分たちなりの「こうすべきだ」という強い思いが必要となる。そのためには「顧客の顧客」に検討の起点を置く必要がある。顧客を観察するのと同じように「顧客の顧客」を観察し、その観察結果から顧客が目指すべき将来像(=顧客の「あるべき姿」)をあぶり出すわけだ。

分析の軸を設定し、専門家の目線を通じて「顧客の顧客」の潜在ニーズや隠れた課題を見抜き、それらを構造化する。このような検討を通じて、彼らにとっての「お金を払ってでも手に入れたいこと」を導き出すことになる。この延長上には、日ごろから「顧客の顧客」を調査しているはずの顧客すら気付いていない成功のシナリオが見えてくる。

戦略体パートナーを目指すには、自分たちが捉えた「成功のシナリオ」を顧客に効果的に繰り出すことが大切だ。そのための手段は「提案」ではなく「議論」である。顧客の興味のあるテーマ、たとえば顧客の事業成長のキーワードをからめたテーマに掲げ、深い議論を繰り返すことで、顧客に対して、自分たちが「共に戦う仲間(=戦略的パートナー)」であることの自覚を促すことができる。

「顧客の顧客」が抱える隠れた課題は、このために必要不可欠な材料となる。

 

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[場当たり的な後藤部長の思考]

お客様のことはお客様自身が一番よくわかっている。私たちの仕事は、顧客から発せられる期待や要求に、専門家として100パーセント応えることだ。そのために私たちは高い技術力を養わなければならない。

顧客の戦略に口を挟むべきだと主張する人たちもいるが、これは顧客を侮辱しているのと同じだ。顧客の領分にまで入ろうとするのはベンダーの傲慢さの現れだ。そんなことをお客様が喜ぶとは到底、思えない。

 

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[本質に向き合う吉田部長の思考]

戦略的パートナーになるのは難しい。しかし、方法が無いわけではない。

お客様が自らの置かれた状況を正しく判断し、適切な戦略を実行できているかといえば、あながちそうでもない。経験からくる思い込み、聴き歩く客層の偏り、変わることへの抵抗感など原因はさまざまだが、専門的な知見が不足していることも原因のひとつだ。そこに私たちの付け入るスキがある。

戦略的パートナーとして顧客と対等な議論をするには、顧客の事業環境を顧客と同じ目線で理解しておかなければならない。「顧客の顧客」を分析し、その分析結果に基づいて、専門家の知見やノウハウを活かしたアドバイスをすることも時には必要だ。

私たちがいっしょになって考えることで初めて実行可能となる戦略があることを、お客様に理解していただく必要がある。

 

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