小野寺工業のチャレンジ

幾多の障壁を乗り越えて新事業開発に取り組む、メンバーとコンサルタントが織りなすドラマです

レイヤ・バイ・レイヤの関係が失注リスクを格段に低下させる

OBFコアメンバーと営業メンバーたちは、浦田の指導の下、アポロマシナリー向けのディスカッションマテリアルの作成に取り掛かった。

今回のディスカッションマテリアルは、アポロマシナリーのプロダクトマネジメントチームとの間で予定されている4度にわたる議論を想定してのものだった。このプロダクトマネジメントチームは、アポロマシナリーの中でも主力の大型工作機の担当だった。

 

ディスカッションマテリアル作成の流れはこうだった。

まずはエンドユーザー分析に着手する。その後、大型工作機市場の将来予測を行い、その流れで大型工作機の将来像を固める。最終的には、この将来像を実現するために、アポロマシナリーと小野寺工業、双方が担うべき役割を整理する。これには、戦略的パートナーとしての小野寺工業の存在意義を相手に印象付ける狙いがあった。

彼らはエンドユーザー(=顧客の顧客)の観察をひと通り終え、観察結果をひとまずパワーポイントの資料に整理した。

 

ディスカッションマテリアルの議論が盛り上がっていた最中、浦田は村山に質問を投げかけた。

「このディスカッションマテリアルはどのクラスの人たちをターゲットに想定しているのですか」

これに対し、村山は質問に質問で返した。

「どのクラスというのは… この資料を見せる相手のことでしょうか… 」

浦田が頷くと、村田は「プロダクトマネジメントチームですが… 」と続けた。

 

しばらくの沈黙の後、村山ではなく、参加していた3名の営業メンバーのうちのひとりが「サブプロダクトマネージャーのジョシュアあたりだと思います」と答えた。

ひとつ上のプロダクトマネージャーではないのかと問う村山に対し、他の営業が、そうではなく、その下のサブプロダクトマネージャーだと答えた。

 

そんなやり取りを眺めていた浦田が「レイヤ・バイ・レイヤという話がありまして…」と話し始めた。

「レイヤ・バイ・レイヤという話がありまして、皆さんにはぜひ知っておいていただきたい内容です。いい機会なのでお話しさせてください」

皆が頷くのを見て、浦田は話を続けた。

「今、皆さんが作成しているディスカッションマテリアルのターゲットは大型工作機のプロダクトマネジメントチームです。プロダクトマネージャーであろうと、サブプロダクトマネージャーのジョシュアであろうと、現場という点では同じです」

きょとんとする村山たちを尻目に浦田は話を続けた。

「ディスカッションマテリアル作戦がお客様に響いて定期的に議論できるような関係になったとしても、それはあくまで現場同士の関係でしかありません。」

 

浦田はレイヤ・バイ・レイヤのコミュニケーションの必要性を解いた。

浦田の話はこうだった。

 

   現場との議論が盛り上がり納得できる成果物が出来上がったとしても、現場がそのことを上層部に持ち上げてくれるかといえば、その期待は薄い。

   議論の成功をアポロマシナリーの上層部に持ち上げるのは、他人任せではなく、OBFコアチームや営業メンバーの仕事である。

   経営幹部同士、事業部長同士、現場同士といったレイヤ・バイ・レイヤの関係構築がうまくいっていれば、この間のコミュニケーションを通じて、すべてのレイヤに満遍なく議論の成功を刷り込むことができる。

 

小野寺工業の存在意義をアポロマシナリー内で高めるのは、自分たち小野寺工業の側の仕事だというわけだ。そのためには、アポロマシナリーと小野寺工業の間にレイヤ・バイ・レイヤのコミュニケーションが成り立っていなければならない。

例えばアポロマシナリーの大型工作機部門の役員と小野寺工業の社長の間に定期的な交流があれば、現場の活動を経営幹部に持ち上げるチャンスが広がる。

 

レイヤ・バイ・レイヤには、実はもっと大きな目的があった。

経営幹部は経営幹部なり、現場は現場なりに、その立場に応じた目的意識や問題意識、価値観などがある。日常的に付き合いのある現場の人たちが口にする目的意識や問題意識が、アポロマシナリーの声を代表しているわけではない。現場と付き合いだけでは、経営幹部の目的意識や問題意識、価値観はわからない。

現場でどれだけ盛り上がっていたとしても、最終的に意思決定を下すのは経営幹部だ。結果的にどんでん返しをくらうのは、さして珍しいことではない。レイヤ・バイ・レイヤのコミュニケーションが成立していれば、このようなことにはならない。

レイヤ・バイ・レイヤでコミュニケーションしていれば、経営幹部をはじめとするステークホルダーの個性をあぶり出すことも、意思決定者や意思決定のタイミングを知ることもできる。これができていれば、失注のリスクは大幅に軽減する。

 

戦略的パートナーを目指す笠間たちに、もうひとつ、新たなアプローチ手法が加わった。

 

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[ポイント]

レイヤ・バイ・レイヤのコミュニケーションを成立させるには、各レイヤのステークホルダーの価値観や目的意識、問題意識を予め想定しておく必要がある。その上で、ひとりひとりに合わせた適切なコミュニケーションの方法やテーマ設定を行わなければならない。

レイヤごとに適切なカウンターパートを設定することも大事だ。

レイヤごとにコミュニケーションするとはいえ、各レイヤの担当者にすべてを任せきっていたのではうまくいくわけない。コミュニケーション全体を主管するチームがコミュニケーション戦略を立案し、これに沿って、面のコミュニケーションがとれるように全体をまとめ上げなければならない。企業間の付き合いに、包括的なマネジメントは欠かせないのだ。

レイヤ・バイ・レイヤのコミュニケーションを計画、運用する責任者をコミュニケーションオーナーと呼ぶなら、コミュニケーションオーナーにはコミュニケーション全体を構造的にとらえ、状況に応じて柔軟に対応できる能力が備わっていなければならない。

 

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[場当たり的な後藤部長の思考]

現場と仲良くしていれば、顧客社内の調整や説得は彼らがうまくやってくれる。自分たちが経営層に直接アプローチすると現場に煙たがられるので、経営層と話をする必要があれば現場に段取りしてもらうほうがいい。

幸い、私たちには現場との信頼関係があるので、相当高い確率で案件を勝ちとることができるに違いない。現場の話では、他社はあまり説明に来ていないらしい。

 

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[本質に向き合う吉田部長の思考]

取れると思っていた案件を経営幹部の一声で失注した、こんなことはよく話だ。提案チームは頻繁に会うことができる現場を重視しがちだが、意思決定するのは経営幹部だ。経営幹部と現場とでは問題意識や価値観が違ので、経営幹部に思いを語っていただく機会が必要だ。

ところが、経営幹部に私たち現場(=提案チーム)がコンタクトしたところで長続きしない。ましてや本音を引き出すことなどできっこない。だが、経営幹部同士なら話は違う。そうだ、確実に受注するには、レイヤ・バイ・レイヤのコミュニケーションは欠かせないのだ。

現場との関係構築が必要ないわけではない。だからこそ、レイヤ・バイ・レイヤには意味がある。このコミュニケーションには、提案の手詰まりを解消する効果がある。

 

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