小野寺工業のチャレンジ

幾多の障壁を乗り越えて新事業開発に取り組む、メンバーとコンサルタントが織りなすドラマです

属人性を排除するにはガバナンスをシステムとして捉え、ガバナンスに関わる機能を総点検し、機能不全な箇所に手を打て

海外事業に属人性がはびこる最大の原因は、宿命的ともいえる事業の煩雑さにあった。煩雑さを解消するのも大変な上に、煩雑さを解消すれば問題が解決するかといえば、事態はそれほど単純ではなかった。

 

海外事業はガバナンスという点からも、手を打てる状況にはなかった。事業運営が現場任せになっており、組織としてうまくコントロールできる状況になかったからだ。全権を委任された現場で属人性がはびこるのは当たり前で、組織が気付かないところでさまざまな問題を巻き起こしていた。

 

特殊工作機の分野は特に深刻だった。特殊工作機は、事業の特性上、ベース機を準備してカスタマイズ対応するわけにはいかない。個別開発の比率が極端に高い分だけ、現場には、自由裁量と権限が与えられていた。それが属人性へとつながり、見積の甘さや採算性意識の欠如、プロジェクトのコスト超過や納期未達などの問題が発生していた。

 

笠間は、成長力回復に向けた改革の一環として、ガバナンス強化は欠かせないと考えていた。

意思決定機関やレポートラインなど、事業部長をトップとする意思決定の仕組みのさらなる強化が必要だと考えていた。

 

笠間は、ガバナンスを4つに分けて捉えることにした。

 

   ガバナンス行動発動の必要性を見極めるための情報収集、エスカレーション活動

   情報に基づく意思決定

   現場への決定事項の落とし込み

   決定事項に基づいて現場が活動していることの監視

 

情報をエスカレ―ションする機能が完全に錆びついていると感じた笠間は、村山と共にガバナンス設計に着手した。ヒアリングでは問題を引き起こしている多種多様な要因が指摘され、このテーマの難しさを痛感した。現場の価値観や仕事のやり方から解決しなければならないこともすぐにピンときた。

 

ふたりが最終的に出した答えは、極めてシンプルだった。

現場と意思決定機関の間のレポートラインを誰でも理解できるように1枚のスライドに表現し、それを現場のひとりひとりに刷り込むというものだ。笠間たちはスライド上に表現されたこの絵のことを「ガバナンスモデル」と呼んだ。

笠間たちはガバナンスモデルを作成するにあたり、枝葉を極力刈り込んだ。枝葉にはそれぞれに事情はあったが、それらはこれまでの習慣や個人的なやり易さに起因するものがほとんどだったからだ。枝葉を切り落とすことは簡略化に直結した。

 

イントラネット上に構築された変革サイトの目立つ場所にアップされたガバナンスモデルは、そのシンプルさゆえに細かな説明は不要だった。

やってみてわかったのだが、「告げ口」や「愚痴」とエスカレーションすべき情報の区別は難しい。雑談や無駄話として処理されていた中にも、エスカレーションすべき情報は紛れ込んでいた。

昼休みや残業時間を利用して、定着に向けたイベントが何度も開催された。その甲斐あって、情報のエスカレ―ションは次第に強化されていった。

 

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[ポイント]

ガバナンスの問題を解決するには、ガバナンスの現状を「現場情報のエスカレーション」「情報に基づく意思決定」「決定内容の落とし込み」「実行監視とフィードバック」という4つの観点から整理しなければならない。この4つがうまく連携できてはじめてガバナンスは機能する。ガバナンスを強化するには、ガバナンスをこれら4つの要素が織りなす「システム」として捉える発想が大切だ。

ガバナンスの問題が発生しているとすれば、それは、ガバナンスシステムがうまく機能していないということを意味している。

ガバナンス強化に向けてはガバナンスシステムから機能不全をあぶり出し、その根本原因を探ることになるわけだが、機能不全には往々にして組織の価値観や文化、現場の意識や働き方が深く関わることが多い。この場合、表面的な対策は問題の根絶にはつながらない。システムを主管する部署を立ち上げたり、仕組みを整備したりするだけではダメだ。

ポイントは、どのような具体策を講じるかにある。

例えば、ガバナンスの観点から判断できる人材を現場に投入し、現場と同じ目線で行動させ、手に入れた情報をエスカレーションさせるという方法がある。最終的にはここまでやらなければ効果がない場合がある。

そうかと思えば、決定事項の実行状況を現場から吸い上げ、監視するだけで問題が解決する場合もある。

ガバナンス対策は、繊細な上にバラエティが豊富なのだ。

ガバナンス問題を解決するには、ガバナンスを構造的にとらえることから始めなければならない。

 

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[場当たり的な後藤部長の思考]

組織的な問題が解決できなかったり、現場任せになった末に大問題に発展したりするのは、ガバナンスが機能していない証だ。ガバナンスに起因するこの例のような問題は、意思決定機関のマズさに原因がある。彼らがきちんと意思決定できてさえいれば、このような問題は発生しなくなるはずだ。

 

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[本質に向き合う吉田部長の思考]

ガバナンス問題の対策として意思決定機関の強化が上げられる。しかし、これだけでは問題根絶には至らない。

ガバナンスには、ガバナンス行動の発動につながる動機、いわゆる問題発生の認知が欠かせない。いくら立派な意思決定機関を設けたところで、動機がなければ機能しない。不都合な事実を隠蔽しアラートを上げない、感度の落ちた中間管理層がアラートを軽視する、こんなシーンを見かけるが、これが根本原因となったガバナンス問題をうちの社内でもよく見かける。

ガバナンス行動で下された意思決定を現場に落とし込む仕組みが機能していなこともよくある。現場には伝わっているが、現場がきちんと行動していない場合もある。

私たちの組織は、いろいろな意味で十分ではない。

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