小野寺工業のチャレンジ

幾多の障壁を乗り越えて新事業開発に取り組む、メンバーとコンサルタントが織りなすドラマです

Good enough(今のままで十分だ)の時代がやってきた

近畿工作機をはじめ国内の大型工作機メーカーは当初、海外からやってきたこれらの汎用工作機メーカーの動きを完全に無視していた。

「所詮、汎用工作機のできることなんて知れているさ」「日本の大型工作機は極めて優秀なので、海外の汎用工作機ごときがこれに置き換われるはずがない」「大型工作機の市場と小型の汎用工作機の市場はまったくの別物で、お互いに重なり合うことなどありえない」。

 

ところが、大型工作機の市場は変化しつつあった。

これまで大金をはたいて大型工作機を購入してきた国内の精密機メーカーや重機メーカーでさえ、近年は海外勢との激しい消耗戦で疲弊しつつあった。

彼らにとっては、費用対効果が一番の関心の的になっていた。これまでのような大型投資を徐々に控えるようにもなった。工作機とてその例外ではなかった。

彼らは、小型汎用工作機をうまく活用して投資の削減と効率向上を両立する術はないものかと模索していた。最先端を追求してきた業界トップメーカーでさえ、数年前に購入した大型工作機を老朽化するまでそのまま使い続けようと考えていた。工作機が年々目覚ましい進歩を遂げる中で、大型工作機の機能や性能にはすでに十分に満足していたからだ。かつてのように、工作機メーカーを相手にわがままを言って困らせるようなこともなくなった。顧客にとって、工作機は手段であって目的ではないのである。

かくして、大型工作機の市場は徐々に汎用工作機に置き換わりつつあった。国内最大手の近畿工作機でさえ、その影響は業績の悪化となって表れた。

 

こんなとき、ことなかれ主義で責任の所在が曖昧な日本企業は、意思決定の遅さから脆弱性を露呈する。悪い情報は上へのエスカレーションの途中で消し去られ、経営陣は状況の変化に気付くのが遅れる。そればかりか、この変化をなかなか認めようとしない。対応は後手に回り、いざ巻き返しにかかろうとしたときにはすでに行き場を失ってしまっている。

近畿工作機はまさにそんな状況に陥っていた。

 

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[場当たり的な後藤部長の思考]

これまでの延長上に将来があるのは疑いようがない。どの時代でも、顧客は「もっといいもの」を求めている。これまでのように自分のやり方で精進し、最先端を突っ走っていれば、顧客は自分たちに付いてくるはずだ。

技術は進歩し続けるし、性能は向上し続ける。その最先端を走ることが私たちの戦略であり、そのほかに戦略などありえない。

 

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[本質に向き合う吉田部長の思考]

「高機能ゆえに今でさえ使いこなせていないMicrosoft Officeのバージョンアップにこれ以上のお金を払う気はない」。ビジネスマンの多くはこの意見に共感するはずだ。これは、私たちのビジネスとて同じこと。

使いこなす能力には上限があり、その上限に達し瞬間から、機能や性能ではない他の競争基盤に関心が向くようになる。この観点に立つと、私たちの事業環境はどうだろうか。顧客の大半は機能や性能にはすでに満足していないだろうか。最先端に投資をする上位市場は、すでに縮小傾向になってはいないだろうか。もしそうだとしたら、新たな競争基盤をリードしない限り、私たちに未来はない。

 

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[ポイント]

これまでの延長上で市場や顧客を捉えるのではなく、分析的な目線を持ち続けることが重要になる。さもなければ市場や顧客の意識の変化に気付くのが遅れ、気付いたときには「時、すでに遅し」ということになりかねない。しかも経営陣に意思決定を促すには、明確な分析結果が欠かせない。

では、どのように分析すればいいのだろうか。先ずは何らかの分析の軸を見つけ、市場をセグメンテーションしてみよう。試行錯誤の上に納得のいくセグメンテーションができたなら、次にそれぞれの顧客セグメントの購入目的は何なのか、どんな要求や期待をもっているのか、利用能力はどの程度なのかなどを分析してみる。各顧客セグメントは、自分たちが準備した機能や性能に満足しているのか、あと何をすれば満足してくれるのかなどと考えてみるのもいいだろう。この分析を通じて、自分たちが目指すべき事業の将来像が見えてくるし、開発投資の期間や金額も予想がつく。それがもしも明るい未来ではないとしたら、新たな魅力を創出するか、さもなければ早めに撤退するしかない。

いずれにしてもこのような分析は、市場への働きかけ方や新たな競争基盤の必要性、そのためには何をしなければならないのかなどを、私たちに明らかにしてくれるはずだ。

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