小野寺工業のチャレンジ

幾多の障壁を乗り越えて新事業開発に取り組む、メンバーとコンサルタントが織りなすドラマです

【 最終回 】[ 総まとめ ] オファリングモデルを活かした事業運営(5/5)

● 結局、定着のカギを握るのは現場の当事者意識だ
 

オファリングモデルの導入は事業運営方法の刷新を意味する。これはまさに組織を上げての大仕事なわけで、ガバナンスに難のある日本企業がこれをトップダウンで実現するのは難しい。つまり、組織の観点と現場の観点、このバランスが成功のカギを握ることになる。

そこで問題になるのが現場の意識だ。

オファリングモデルの導入に限らず、定着のカギは現場の意識にある。

 

オファリングモデル導入の準備段階、それは現場にとって他人事でしかなかった。ところがオファリングモデルベースの事業運営が開始されると現場は大きな変化に見舞われ、これまでは無関心だったひとりひとりが新たな行動様式の下で重要な役割を担うことになる。

 

組織は現場の意識を「無関心」から「関心」、「参加意識」を経て「当事者意識」へと向かわせなければならない。特に注目すべきは「参加意識」と「当事者意識」の違いだ。

参加意識の下では、人は口やかましく言われるうちは動くが、それがなくなると動きを止めてしまう。ところが当事者意識の段階にある人は、ひとり取り残されたとしても動きを止めることはない。変革を現場に定着させるには当事者意識の醸成を目指さなければならない。

 

現場の関心を高めるには情報や知識を与えればいい。ところがこれだけでは参加意識には至らない。参加意識を醸成するにはガバナンスが大事だ。強いリーダーシップで引っ張ればそこに参加意識が生まれ、参加意識の芽生えた現場は指示通り動き始める。ところがこれを続けたところで当事者意識には至らない。

現場を当事者意識に追い込むには都合のいい話だけをしていてもダメだ。それに加えて「危機感」と「腹落ち感」の両方が必要になる。しかし、これを演出するのは並大抵のことではない。

 

私は35歳を過ぎたあたりで外資系企業に身を置いた。しばらくすると業績は悪化し、米国本社の指導の下に大改革が始まった。社員の多くは日本企業からの転職組だったので、改革には抵抗感があった。

 

当初、意識改革のために本社サイドが繰り出すチェンジマネジメント(変革を促すために戦略的に仕組まれた手法)に抵抗感が募った。

とはいえ、この改革が業績改善につながることは理解できていたし、それが自分たちの生活向上につながることも知っていた。わだかまりの原因が自分自身にあることは頭ではわかっていたが、それでも苦痛は癒えなかった。

 

そんな私たちを最終的に改革へと駆り立てたのは、外資系ならではの評価制度だった。

この会社の評価制度は、言わずと知れた業績連動型だった。年俸に占めるインセンティブの比率は高く、目標を達成できなければ生活は厳しくなる。そればかりか、2年連続で目標未達なら自動的にリストラの対象となる。

今思うと、この危機感が私たちを救った。現場のひとりひとりを前向きにさせ、結果的に自分を楽にさせた。

 

時間の経過は慣れを生み、人を変える。

知らず知らずのうちに私たちは改革と向き合うようになり、小さな工夫やアイディアを生み出すようになった。それが小さな成功体験へとつながり、私たちを勇気づけた。

 

日本企業は欧米企業に比べて組織的な改革を苦手とするが、原因のひとつはこのあたりの違いにある。

日本企業に勤める日本人の多くは改革の必要性を口にするが、話が具体的になると「今のやり方でうまくいっているので…」と下を向き「そんなやり方は無理だ」と語気を荒げる。

しかし、これだけは知っておいていただきたい。私たちに必要なのは「できない理由」ではなく「やり遂げるためにはどうするか」の議論なのだ。

 

残念ながら、私の思考力はこのあたりでストップしており、現時点でこの問題の解決には至っていない。

 

日本企業で改革が定着しない責任をすべて評価制度に押し付けることはできないが、根本原因のひとつが評価制度にあるのは間違いない。しかし、日本企業の評価制度改革は並大抵のことでは進まない。

肉を切らせて評価制度改革に真剣に取り組むか、それとも会社や事業部の解散という憂き目にあって骨を切られるか、私たちは難しい選択を迫られている。

いずれにせよ、変わらなければならないのは現場だが、決断しなければならないのは現場ではなく幹部の皆さんだ。

 

幹部:   「どういう状況になれば、現場は危機感を感じるのでしょうか?」

私:       「その前に、あなたは嫌われ者になれますか?」

 

私のこの質問返しに幹部の顔色は曇る。

現場に危機感をもたらすには、現場の当事者意識を高める必要がある。そのためには、評価制度改革のような現場の痛みを伴う改革を断行しなければならない。結局、「現場の味方」ではやっていられないのだ。

 

変革により、一時的に、現場から笑顔が消えるかもしれない。しかし、それが彼らの当事者意識につながる変革ならば、近い将来、また笑顔を取り戻すこともあるだろう。

しかし、会社や事業部がなくなれば、現場のそれまでの笑顔は一瞬で消え失せ、そのあとは終わりの見えない暗闇が続くだけだ。これまで培ってきたものの多くは価値を失う。

 

避けては通れない決断の瞬間がそこにはある。

 

浦 正樹

 

[補足]

 

私は今、ガバナンスが効かない大組織の改革に取り組んでいる。さまざまな理由で痛みを伴う決断ができなかった組織を、ボトムアップで変えていこうという取り組みである。目指しているのは「体質改善」であり、「基本行動の定着」がキーワードだ。

この組織では、過去に何度もトップダウンに挑戦し、そのたびに煮え湯を飲まされてきた。そこで今回は、無謀とも思えるボトムアップを選択した。このアプローチをお客様の幹部に決断させたとき、私には確信はなかったが勝算はあった。

 

私はいま「成功をイメージさせる頼もしい仲間」として現場に入り込み、日夜現場とともに考え、作業している。全神経を研ぎ澄ましながらも笑顔で彼らに接し、洞察力と蓄積してきた知見のすべてを一瞬一瞬に注ぎ込んでいる。変化の種をまき続け、栄養分と水を供給し続けているわけだ。

このアプローチは最初の数カ月で、一部の人々に目を見張る変化をもたらし、私の勝算は確認に変わりつつある。意識改革は、予想を超えるスピードで広がりつつある。

 

いつか、この成果を皆さんと共有できる日が来るだろう。

その日が楽しみでしかたない。

私のチャレンジ精神は燃え続けている。

  

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