小野寺工業のチャレンジ

幾多の障壁を乗り越えて新事業開発に取り組む、メンバーとコンサルタントが織りなすドラマです

[ 総まとめ ] オファリングモデルを活かした事業運営(2/5)

l  マトリックス型事業運営の悩みをオファリングモデルが解決する

 

オファリングモデルは事業運営の基礎をなす。

意志薄弱な行動を繰り返してきた事業運営は、オファリングモデルの採用により大きな第一歩を踏み出すこととなる。オファリングモデルという背骨を獲得し、しっかりとした歩行が可能となるのだ。

複雑なマトリックス型の事業運営を行う組織ならなおさらだ。オファリングモデルは、マトリックス型で混乱する事業を救う手段となりうる。

 

事業環境が複雑化する中で、多様化する市場の要求に応えるべき多くの組織がマトリックス型の事業運営に舵を切った。ところが、これが容易ではなかった。

マトリックス型の事業運営の難しさは、縦軸に配置された多数の部門に横串を刺すことのできる効果的なマネジメント手法が存在しないことに起因する。オファリングモデルなら、この課題を解決できる。なぜなら、オファリングモデルは縦軸の部門に横断的に働きかける概念だからだ。

オファリングモデルの最大の特徴は「顧客起点」にある。縦割りの組織が提供する断片的な提供価値では顧客に訴えかけることはできない。交わることを拒絶してきた各部門は、オファリングモデルの開発過程で、いやがおうでもコラボレーションを余儀なくされる。結果的に、オファリングモデルは縦割り部門の連携を促すことになる。

 

オファリングモデルを採用することで、マトリックス型組織の事業運営は格段に効率化するに違いない。

 

l  これまでの「顧客中心主義」はオファリングモデルが掲げる「顧客起点」ではない

 

さて、私はオファリングモデルを「市場や顧客を起点とする概念」と位置付けているわけで、オファリングモデルを事業運営の中核に据えるということは、事業を顧客起点で運営するということに他ならない。ところが、オファリングモデルという概念を導入しようとした多くの日本企業は、このことが原因で壁に直面することになる。

 

歯に衣着せずに言えば、日本企業が掲げる「顧客中心主義」の実態は「顧客の考えを拝聴してそれを完璧に実現する」という、いわば「御用聞き」的な発想に過ぎない場合が多い。

これに対し、オファリングモデルが掲げる「顧客起点」の本質は、顧客の目線で考え、価値提供することにある。「顧客観察」で獲得した知見を武器に顧客にプロアクティブに働き掛け、唯一無二のビジネスパートナー(=戦略的パートナー)の座を目指すわけだ。プロの目は、時として、顧客すら気付いていない潜在的な課題を発見することだってある。

この目論見が成功すれば、皆さんは、顧客の事業の一翼を担う存在となる。

 

ところが日本企業の多くは、顧客観察にも、戦略的関係の構築にも慣れていない。マーケットインが苦手なわけだ。これがオファリングモデル開発の足枷になる。

 

「なーんだ、日本企業にはオファリングモデルなんて無理なんじゃないか」

 

こう結論付ける前に、小野寺工業の新事業立上げストーリーを読み返してほしい。ディスカッションマテリアルやレイヤ・バイ・レイヤなど、マーケットインのためのヒントが見つかるはずだ。

 

l  オファリングモデル導入の手順

 

オファリングモデルを導入するための手順を考えてみよう。

 

最初に取り掛かるのは、柱となるソリューションの開発だ。

顧客起点のソリューションは「さあ作るぞ」と意気込んだところで、おいそれと作れるものではない。顧客すら気付いていない潜在的な課題を見つけるには顧客を観察するしかないが、遠くから観察していたのでは意味はない。つまり、顧客に寄り添う関係でなければならず、顧客の「戦略的パートナー」という立ち位置が必要になる。

ところが、数多くの顧客を相手に戦略的パートナーを目指すのは現実的ではない。そこで、魅力的な市場を絞り込み、そこからターゲット顧客を選び出す作業が必要になる。

 

ソリューション開発の手順を敢えて逆方向に遡ったが、これを時系列にプロットし直すと以下のようになる。

 

      自分たちにとって魅力的な市場を絞り込む。

      ターゲット顧客を決め戦略的パートナーとしての立ち位置を築く。

      顧客を観察し、そこで獲得した知見をもとにソリューションを開発する。

 

ソリューション開発では、汎用性を考慮することを忘れてはならない。後工程の効率を考えれば当たり前のことだ。顧客のわがままやマイナー要求に引きずられてはいけないし、一点ものの高価な技術や構成品を使ってもいけない。機能はできるだけモジュールの組み合わせで実現したほうがいい。

ところが、そうは言ってもソリューションには自分たちが選ばれる理由を作り込んでおく必要がある。そこにソリューション開発の難しさがある。

 

顧客に言われるままに開発しておき、後で汎用ソリューションに改造しようなどと考える人もたまにはいるが、それは虫が良すぎるのでやめたほうがいい。そんなに都合よくいった例を私は見たことがない。

 

柱となるソリューションが完成したら「付属品」をセットし、いったんオファリングモデルを完成する。付属品にはビジネスモデルも含まれる。

オファリングモデルが完成したら、実際にこれを使って事業をまわしてみよう。問題があれば適宜修正すればいい。

 

      柱となるソリューションに付属品を添えてオファリングモデルを完成する。

      でき上がったすべてのオファリングモデルを重ね合わせて事業をマネジメントする。

      顧客への提案スタイルを従来の「御用聞き」型から「戦略的パートナー」を前提としたソリューションセリングに切り替える。

 

説明を補足するとすれば、アカウントマネジメントだろう。日本企業の多くはアカウントマネジメントが苦手である。

アカウントマネジメントの肝はアカウントプランだ。アカウントプランが不十分なままに提案活動に力を入れたところで付け焼刃でしかない。

ここでは、オファリングモデルを活用したアカウントプランの作り方を簡単に紹介しておこう。

 

アカウントプラン作成は最初が肝心で、「国盗り表」がそれにあたる。顧客のどの領域をどのベンダーが押さえているのかをまとめた表を、私は「国盗り表」と呼んでいる。

国盗り表の原型は、オファリングモデルを開発する過程にできあがる。オファリングモデルを開発するには、顧客の要求をいくつかの領域に分類し、その中から対象領域を絞り込む必要があるからだ。これに多少のアレンジを加えることで、国盗り表の枠組みは完成する。

枠組みが完成したら戦略的パートナーという立場を活かして顧客から情報を収集し、枠組みを埋めていく。

でき上った結果を眺め、自分たちが進むべき道を決める。どの領域で自分たちの強みを刷り込むのか、どの領域で他社のリプレースを狙うのかなどを決めるわけだ。

こうやってアカウントプランはできあがる。

 

これら一連の流れが完了し運用が定着したら、組織的に体制を整え、オファリングモデルを維持、メンテナンスすればいい。

 

      オファリングモデルを維持、メンテナンスする。

 

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