小野寺工業のチャレンジ

幾多の障壁を乗り越えて新事業開発に取り組む、メンバーとコンサルタントが織りなすドラマです

[ 総まとめ ] オファリングモデルを活かした事業運営(4/5)

l  オファリングモデルを支える事業運営の仕組みを整備する

 

オファリングモデルをうまく導入できたとしても、これを支える事業運営の仕組みが整わないままでは大きな効果は期待できない。導入手順の説明では「⑥ でき上がったすべてのオファリングモデルを重ね合わせて事業をマネジメントする」と説明したが、これは事業運営の仕組みがあってこその話だ。

 

オファリングモデルの成果を高めるには以下のような仕組みの整備が欠かせない。

 

a        事業計画の立て方、取りまとめ方

b        事業マネジメント(投資判断や計数管理など)の仕組み

c         営業スタイル、営業部と事業部のフォーメーション

d        キャパシティマネジメント、リソースマネジメント

e        パートナー戦略

 

l  オファリングモデルの導入で各事業部の立ち位置が変わる

 

マクロ的な観点から、オファリングモデル導入後の事業運営の変化を確認しておこう。ポイントは各事業部と組織全体の関係性の変化だ。

 

オファリングモデルは事業部に閉じていても、事業部横断でもいい。これは、オファリングモデルの導入目的や事業の切り方によって異なる。

今回は、説明の都合上、事業部横断的なオファリングモデルを例にとって説明する。

 

日本企業では、事業運営の実態は事業部が握っている。

例えば、ハードウェア系、ソフトウェア系、サービス系の各事業部が事業計画を作成し、それぞれが自律的に事業を運営、管理している。経営企画部門は全社の事業計画や事業実績を事業部横断で集約し、企業全体を管理している。

ところが最近は、この例のような運営形態は通用しなくなりつつある。顧客志向や価値志向の高まりから商品は複合化が進み、ハードウェア部門、ソフトウェア部門、サービス部門がバラバラに事業運営していたのでは、商品の魅力面や価格面で競争に勝てなくなったからだ。

目指すところは事業部横断的な事業運営なのだが、これがなかなか難しい。事業部ごとに組織文化や価値観が違うし、既得権を放棄させるのにも骨が折れる。これが日本企業の成長を妨げていると言っても過言ではない。

 

ここまで前置きすれば、もうお気付きだろう。

そうだ、オファリングモデルの概念は、この難題を解決することができる。事業横断的にオファリングモデルを開発すればいいのだ。

 

事業部横断型のオファリングモデルを導入する場合、各事業部が事業計画を作成するのは計画プロセスの最終段階にあたる。なぜなら、計画プロセスは商材(=オファリングモデル)の括りで事業部横断的に開始されるからだ。

ところが、ここで問題が発生する。事業部ごとバラバラに事業計画を作成してきた企業には、これを統括する部門が存在しないのだ。誰が事業部横断的に計画をまとめ上げればいいのだろうか。

 

この疑問を解決するには、「それぞれのオファリングモデルのオーナー(責任者)は誰なのか」という質問に答えなければならない。

最も有力な答えは、オファリングモデル単位に結成される推進チーム(オファリングモデル推進チーム)が、それぞれ個別に計画をまとめ上げるというものだ。必然的に、でき上る計画はオファリングモデル単位ということになる。

 

推進チームは、担当するオファリングモデルとその推進計画(=オファリングモデル計画)を作成する。経営企画部門は、それらをひとつに集約し、全社の事業計画にまとめ上げる。各事業部が事業部単位の事業計画を作成するのはこの後だ。

各事業部は、でき上ったオファリングモデル計画を横断的に捉え、自分たちの役割や責任を果たすための計画を作成する。こうして完成したものが事業部単位の事業計画である。

事業部はオファリングモデル計画の立案にも関わっているので、この段階に計画が骨抜きになることはない。

このあたりの構図を、もう少し詳しく説明しよう。

 

オファリングモデル推進チームは、オファリングモデル計画に綴ったゴールの達成に責任を持つ。そのためには実行計画が欠かせないわけだが、推進チームのメンバーだけでそれを描けるかといえば、そんなわけではない。

推進チームは実行計画に自分たちの意思を込めるが、実行可能な詳細度でそれを描き出すのは事業部の役割だ。推進チームが作成した実行計画を受取った事業部は、オファリングモデル横断的な議論を経て、それぞれに詳細な実行計画を作成することになる。

事業部単位に事業計画を作成する段には、これらがその中核となる。

 

ここまで説明してきたように、オファリングモデルの導入前後で事業運営の形態は大きく変化し、これは組織にインパクトを与える。

 

逆の考え方もできる。

組織が大きな変化を決断しない限り、本格的なオファリングモデルを導入することも、それを活かすために運営形態を変えることもままならない。

私には、この考えの方がしっくりくる。

 

l  オファリングモデル導入後はオファリングモデル推進チームが重要な役割を果たす

 

重い話をしてきたが、せっかくなので、もう少し具体的な話をしよう。

オファリングモデルを開発し、提案し、受注した後は、プロジェクトを通じてそれを顧客に届けることになる。この流れに沿って、オファリングモデル推進チームと事業部のフォーメーションを説明する。

 

すべてに渡って中心的な役割を果たすのはオファリングモデル推進チームである。各事業部から参加しているメンバーを動かすのは彼らの仕事だ。開発フェーズから顧客への提供フェーズまで、プロジェクトマネジメントは彼らが担うことになる。

 

ちなみに、顧客との関係構築活動は、オファリングモデルと独立して営業部門が担うのが一般的である。推進チームの出番はオファリングモデルの紹介くらいだろう。

案件発掘後はオファリングモデルが活動の柱になるので、オファリングモデル推進チームが主役を務めるが、顧客接点をコントロールするのはあくまで営業の役割である。

 

よく議論になるのだが、オファリングモデル推進チームのメンバーとは、果たしてどういう人たちなのだろうか。事業部から独立した事業部横断的な存在と考えるなら、推進チームは常設の組織でなければおかしい。果たしてこれは適切なのか。

 

グローバル企業を注意深く観察すると、これに対抗するもうひとつの答えを見つけることができる。それぞれのオファリングモデルで最大の勢力を占める事業部が中心となって、都度、オファリングモデル推進チームを選出するというやり方だ。選出されたメンバーは、出身事業部の利益を代表するという立場から、企業の利益を代表するという立場に衣替えさせられる。

私には定まった答えはないが、経験でお話すると、オファリングモデル推進チームが常設されることはほとんどなかった。

 

l  オファリングモデル導入は市場アプローチのスタイルをPush型へと向かわせる

 

オファリングモデルを活かそうと思えば、市場へのアプローチ方法を、これまでのPull型からPush型に転じる必要がある。少し詳しく説明しよう。

 

Pull型の主流は、顧客が自ら実現したい内容を決め、構成要素ごとに複数のベンダーを競わせるというやり方だ。商談の規模は小さめで、しかも価格競争に陥りやすいため、ベンダーにとってはうれしい話ではない。勝率は低く、仮に受注できたとしても利益は少ない。

しかし、日本企業の多くは何の疑いもなくこの状況を受け入れている。

 

Pull型のもうひとつの欠点は、積極的な事業拡大が難しいことにある。引き合いを「待つ」しかないためだ。引き合いを増やためにはブランド力強化やイベントにお金を使う必要があるが、たいていは期待したほどの効果は得られない。

 

これに対し、Push型は自分たちが主役で起点は顧客だ。市場分析を通じてターゲット顧客を選定し、関係構築を図る。国盗り表を作成し、何を強みに、どの領域を、どのオファリングモデルで攻め込むかを決め、自分たちが「選ばれる理由」を日常的に顧客に刷り込む。

その結果、自分たちに有利なRFPを書かせることに成功する。

 

Pushに成功した案件は勝率が高く規模も大きい。トータルソリューションで価値提案するので、価格競争に巻き込まれることは少ない。オファリングモデルを増やしターゲットを拡大することで積極的な事業拡大も可能だ。

 

Push型の市場アプローチはオファリングモデル導入に影響されて始まり、組織の後押しで現場に浸透する。このように、オファリングモデルには、組織全体に広がった沈滞ムードを吹き飛ばすだけの力がある。

 

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