小野寺工業のチャレンジ

幾多の障壁を乗り越えて新事業開発に取り組む、メンバーとコンサルタントが織りなすドラマです

お客様との議論はディスカッションマテリアルで盛り上げる

 

笠間たちはアポロマシナリー対応をしている営業担当者を呼び出した。

夕方から始まった会議は深夜まで続いた。

笠間は「戦略的パートナー」の話を興奮気味に説明した後、顧客との関係構築の必要性を熱く語った。「ディスカッションマテリアル」という言葉が、笠間の口から何度も発せられた。実はこの話は浦田からの受け売りだったが、この話を聞いたとき、笠間はいたく感銘を受けたのだった。

 

浦田から戦略的パートナーの説明を受けたとき、笠間は、その言葉の意味をおおよそ理解できた。しかし、どうやってその関係を作り上げればいいのかは全く見当がつかなかった。笠間の不安げな表情を読み取った浦田の口から「ディスカッションマテリアル」という言葉が飛び出した。

笠間はそれまで「ディスカッションマテリアル」という言葉を耳にしたことがなかったが、

その後の説明で、これが戦略的パートナーを目指す上でのキーワードだということを知った。

 

ディスカッションマテリアルの説明を受けるうちに、笠間は新鮮な驚きを感じた。これまで、顧客に提出する資料といえば提案書と見積書くらいのものだったが、ディスカッションマテリアルはまったく別物だった。

 

「提案書は相手を説得するために自分たちの強みをアピールするためのものですが、ディスカッションマテリアルはこれとはまったく違います。相手と本音で議論するにはそのための土俵を準備しなければなりません。ディスカッションマテリアルはこの土俵に相当します。双方の市場認識や成長シナリオなどを立場の違いを超えて共有し、未来志向で議論するための活性剤の役割を果たします」

 

笠間は浦田の話に聞き入った。

 

「提案書に間違いがあってはなりませんが、ディスカッションマテリアルは、前提をはっきりさせておきさえすれば、ちょっとした間違いや勘違い、不完全な部分があっても気にする必要はありません。議論のたたき台の位置付けなので、その後の議論を通じて修正されていくはずです。むしろ突っ込みどころがあるくらいのほうが話は盛り上がります。間違いを奨励しているわけではありませんが、しっかりと議論した結果がそうであるなら、ディスカッションマテリアルとしては十分です」

 

この説明に、笠間たちの既成概念は打ち砕かれた。

 

ディスカッションマテリアルに大切なのはタイミングだ。

提案書は完成度を高めることに時間を費やすため完成には期間を要するが、ディスカッションマテリアルは違う。取り上げるテーマ、目の付け所、論理展開などの議論には時間をかけるが、完成度には必要以上にこだわらない。そこにこだわると、タイミングを逸してしまうことになりかねないからだ。

 

笠間がコアチーム以外のメンバーにディスカッションマテリアルの話をするのは、この日が初めてだった。反発必至と覚悟していたが、驚くことに反応は良好だった。おおむね、笠間たちが浦田の説明を聞いたときと同じだった。

  

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[ポイント]

顧客との議論をリードするために準備する資料がディスカッションマテリアルだ。ディスカッションマテリアルは、顧客との議論を活発化させる呼び水になる。

議論では、顧客の興味のあるテーマ、たとえば事業成長やターゲット市場の将来像などを取り上げ、ディスカッションマテリアルを活かして共通認識を形成する。テーマを深掘りするのはその後だ。顧客が積み上げてきた知識や経験と自分たちの専門性がぶつかり合い、相乗効果を生むことで、これまでとは違った洞察が生まれ、新しい価値がもたらされる。

ディスカッションマテリアルは提案書ではないので、商品の優位性や技術力の高さなどをアピールする必要はない。このようなアピールは顧客に「売り込み」と勘違いされ、警戒心を招きかねないので、むしろ逆効果だ。

ディスカッションマテリアルは「言われてみれば、確かにそうだ」という共感を狙うことが大切で、ディテールに踏み込み過ぎないほうがいい。市場構造や自分たちが主張する根拠などを構造化し、その中にキーワードを埋め込み、論理的に組み上げられたシナリオで分かりやすく構成することが大切だ。

ディスカッションマテリアルで狙うのは、お客様の共感だ。言うまでもないが、そのためには、お客様の価値観や問題意識を理解しておく必要がある。

 

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[場当たり的な後藤部長の思考]

勝敗を決するのは提案内容の良し悪しとアピール度だ。競争に勝つには、自分たちの強みを提案書に込め、それを顧客が納得できるようにしっかり説明するしかない。「弱み」ではなく「強み」に顧客の目を惹きつけることが大切だ。

ただし、「強み」が独りよがりでは話にならない。そうならないためにも、顧客のKBF(Key Buying Factor:購入の決め手)をつかむことが大切になる。

価格競争にならないように全力をあげて差別化を図るが、差別化できないこともある。その場合は、価格勝負で勝つしかない。KBFをつかんでおけば、KBFに合わせて機能、性能にメリハリをつけることができるので、価格競争は有利になる。

 

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[本質に向き合う吉田部長の思考]

共に戦う仲間=戦略的パートナーになるには議論を重ねるしかない。継続的な議論に持ち込むには、私たちと議論することの意義をお客様に自覚してもらう必要がある。これに時間がかかるのは仕方ない。ゴリ押しした結果、「君たちと議論した時間は無駄だった」となってしまってからでは取り返しがつかない。

ディスカッションマテリアルで欠かせないのが「顧客の顧客」の分析だ。「潜在的な課題」をあぶりだせていたら最高だ。まずは「顧客の顧客」を観察し、これを起点に「お客様とのWin-Winシナリオ」をディスカッションマテリアルにしたためよう。最終目的は、お客様の共感を得ることにある。

言うまでもないが、単に議論に参加するという受け身の姿勢ではダメ。大切なのは、自分たちが議論をリードするという気構えだ。お客様に資料作成をゆだねるのではなく、私たちが自ら議論のテーマを準備し、ディスカッションマテリアルを準備しなければならない。ディスカッションマテリアルで議論を引っ張り、お客様の口から「皆さんとは良い議論ができますね」という誉め言葉を引き出そう。

 

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