小野寺工業のチャレンジ

幾多の障壁を乗り越えて新事業開発に取り組む、メンバーとコンサルタントが織りなすドラマです

新しい事業を立ち上げるには既存顧客を狙っていたのではダメ! マーケットセグメンテーションから始めてターゲットを絞り込もう

笠間たちは海外の情報を収集し、大型工作機メーカー、装置メーカー、構成機器メーカーといった大型工作機の提供側とそれを購入する側にどんなプレイヤがいるのかを調査した。笠間と浦田は、以前に大雑把な議論をしたことはあったが、情報収集するのはこれが初めてだった。

ただし、時間をかけるわけにはいかなかった。時間がかかればかかるほど、チャレンジの重大さや難しさに疎い幹部たちが黙ってはいない。

一番多くの情報を持っていたのは、海外汎用工作機メーカーに加工制御ソフトウェアを提供している汎用ソフトウェア事業部だった。ここは大島の古巣なこともあり協力的で、情報収集はスムースに進んだ。

 

彼らから、工作機市場に詳しい米国のコンサルタントも紹介してくれた。

窓口は、英語が堪能な岡が務めた。彼らが発売している情報のうちのいくつかを購入して関係者で読み込み、コアチームやOBFチームで議論を重ねた。

 

市場調査と並行して、笠間たちは自分たちの商材や技術の棚卸しに着手した。

やってみると、自分たちが、自らの商材や技術をあまり理解していなかったことに驚いた。きちんと整理された情報はほとんど存在しなかった。笠間たちはOBFメンバーに指示して事業部内の情報をかき集めた。

その結果、商材としては加工制御装置、加工制御ソフトウェア、加工機を構成する機器類などの情報を、技術としてはナノ加工技術、省電力技術、極薄板切削技術などの情報を一覧できるようになった。

 

ところが、そこには大きな問題があった。

集まってきた情報にはそれぞれに解説が添えられていたが、どれも専門的な言葉で書かれていた。他人が、ましてや技術者以外の人が読むことなど、まったく想定されていなかった。

浦田は以前にこう語っていた。

 

「顧客開拓や案件発掘に当たるのは、営業部や各国の出張所のメンバー、場合によっては現地代理店の人たちです。彼らに専門的な言葉は理解できないですよ」

 

しかも、添えられた解説には、商品や技術にどんな「強み」があるのかの説明は書かれていなかった。事業部のビジネス意識の低さが露呈した瞬間だった。浦田の指導のもと、集められた情報は第三者にもわかり易い文章に書き換えられ、強みと弱みが顧客目線で追加された。

 

こうした整理は、次に予定されているマーケットセグメンテーションに向けた準備作業であった。

マーケットセグメンテーションとは、文字通り、市場を分類することである。この分類のデキが、いざ市場戦略を実行に移そうとした際に、そのやりやすさを左右する重要なポイントとなる。

例えば、収入の違いが購入意欲に影響することに気付いた戦略チームは、収入の違いに着目した戦略を立てたいと考えるに違いない。ところが、地域別のマーケットセグメンテーションで全体が動いていたならば、この戦略を実行に移すのは極めて難しくなる。

 

浦田の指導のもと、笠間たちは市場分析をもとにマーケットセグメンテーションの検討に着手した。汎用工作機や加工制御ソフトウェアの販売も含む広い範囲を対象とした。

Pull型に慣れてきた小野寺工業の社員たちは、マーケットセグメンテーションの必要性すら理解できない。検討メンバーを笠間たちコアチームに絞った理由はそこにあった。先ずはコアチームでたたき台を作成し、これをディスカッションマテリアルとする。各事業部から選抜されたOBFメンバーたちが議論に参加するのはその後だ。これも浦田のアドバイスだった。

 

まずは分類の切り口を議論したが、ありきたりなものばかりで、コレというものはなく、検討は暗礁に乗り上げた。海外事業の立ち上げイメージが十分に腹落ちしていなかったことが原因だったが、笠間たちはそのことに気付いていない。議論は延々と続いていたが、浦田は、笠間たちがそのことに気付くまで黙って様子を観察した。

 

かなりの時間が流れたとき、笠間は浦田に「難しいですね」と話しかけた。浦田は、なぜ分類の軸が決まらないのか、その理由を考えるように指導した。そこからさらに、30分近い沈黙が続いた。

 

「この作業は、なんのためにやっているのでしたっけ」

 

そう問いかけた村山に笠間が応えた。

 

「ターゲットを絞り込むための準備じゃないか。これからはPush型でいくのだから、ターゲットを決めないとPushのしようがない」

 

それに中本が続いた。

 

「僕たちは、どうやって海外事業を立ち上げようとしているのでしたっけ?」

 

案の定、話は以前の「どうやって海外事業を立ち上げるのか」の議論に逆戻りした。

行きつ戻りつしながら、マーケットセグメンテーションに向けた議論は続いた。

 

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[ポイント]

ターゲットセグメント(=ターゲットとして狙う顧客層)を絞り込むには、その前に、市場をセグメンテーションしておく必要がある。

マーケットセグメンテーションの軸はシンプルに2軸で考えよう。セグメンテーションに当たっては、事業戦略や事業方針を際立たせる軸を見つけることが大切だ。それに加え、セグメントごとに特徴がはっきりしていること、顧客を識別できることなども意識しておく必要がある。イメージする顧客を当てはめてみピンとこなかったら、そのときは別の軸を探すことになる。

 おぼろげにセグメンテーションの方向性が見えてきたなら、次は、各セグメントを特性付けるのに相応しい比較項目を設定し特性を描き出す作業が始まる。仮に顧客に着目して比較項目を洗い出すとするなら、購入目的、困り事、要求や期待、価格意識などの項目が思い浮かぶだろう。

このような作業を通じて、おぼろげだったセグメンテーションは鮮明さを増すはずだ。

 マーケットセグメンテーションの後は、事業戦略や事業方針を固めながら顧客(=ターゲットセグメント)を決める作業に移る。目指す事業のイメージに合致する顧客を選定するには、「目指す事業のイメージ」を明らかにしておく必要がある。何を強みにするのか、どんな立ち位置を狙うのか、どの程度の先行投資が可能なのか、どんな成長シナリオを描くのかなどの事業方針がこれにあたる。これらが明らかになっていれば、戦略に適した顧客を識別することができる。

 また、市場に魅力があり、期待や要求が自分たちのコアコンピタンスに合致していることも顧客選定の条件となる。場当たり的な人は「もったいない」とばかりに、手当たり次第に顧客を拾い上げようとするが、これは経営資源の無駄遣いを招くだけだ。

さらに、リーチできる顧客でなければ意味がないし、組織体制との親和性が高いことも大事になる。

 市場の全体像を捉え、それをさまざまな角度から分析すれば、ターゲットセグメントは自ずと浮かび上がってくる。

 

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[場当たり的な後藤部長の思考]

狙いを定め、ターゲットを絞り込むなんて、私にとっては論外だ。今でさえ案件が少なくてギリギリの状況なのに、ターゲットを絞り込めばさらに苦境に立つことになる。そんなもったいないことができるわけない。すべての引き合いに全力で対応し、できるだけ多くの案件で勝利する。これが一番の戦略だ。

これから始める事業であれば、選り好みせずに広く構えてそこで勉強すればいい。ターゲットを絞り込んだところで、そこで勝ち組になれる確証は何もない。

 

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[本質に向き合う吉田部長の思考]

既存顧客をターゲットにしていたのでは、これまでのやり方から脱皮できない。これまでの延長線上でこれからの事業を考えようとしているのならまだしも、これまでの事業を否定して新たな事業に踏み出そうとしているときに、既存顧客から始めるというのはあり得ないことだ。私たちが目指す事業のイメージに合致する顧客をターゲットとして選び出し、そこに持てる力を集中する必要がある。

同じような期待感や満たされない欲求をもつ顧客層をターゲットにすれば戦略を立てやすいし、提案活動への備えもしやすい。技術開発や製造設備への投資も効率化できる。

 

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